第144章 恋着
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普通ノックとはコンコン、と鳴るものだが。
がんがん、と明らかに足で蹴っている音がする。
こんなノックをするのは、不機嫌な時のリヴァイくらいだ。
やれやれ、ナナをここに置く判断をした俺を責めに来たのか?と扉を開ける。
「なんだ、リヴァイ―――――……!」
「………届け物だ。」
不機嫌なリヴァイには違いないが、その腕にはよく眠ったナナが抱かれている。ナナがリヴァイに話をつけに行ったのか。
そして――――まぁ、なんで眠ったのかはわからないが。
「――――いつも悪いな。」
「全くだ……色気もなにもありゃしねぇ。ガキみてぇにすぐ寝やがる。」
―――リヴァイの言葉は暗に、『俺とは何もない、心配するな。ナナを責めるな。』と言っている。不器用な優しさに思わず笑みが零れるが、ナナがこうも安心しきってリヴァイの腕に抱かれて眠っている様子は、いささか嫉妬心が掻き立てられる。
「――――届けてくれて礼を言う。さぞかしお前の側にいると安心するんだろうな。――――まるで保護者だ。」
「――――てめぇの監督不行き届きを補ってやってるまでだ。報酬は最高級のウイスキーで支払え。」
「――――ふふ……善処しよう。」
リヴァイからナナを引き取りたいのはやまやまだが、いかんせん腕が足りない。片腕で抱き上げることもできなくはないが、起こしてやりたくはない。
「―――すまないが、俺のベッドまで運んでくれるか。」
「…………ああ。」
リヴァイはゆっくりと歩を進め、俺の部屋の一番奥にあるベッドにナナを降ろした。
その表情は――――、少しも色褪せていない、ナナを心から愛しいと思う男のそれだ。
――――無いはずの右腕がズキ、と痛む。
――――俺の最愛の人を最も守れるのは、もはや俺じゃない。
そう自覚しかけたのを胸の奥にしまい込んで、余裕すら感じさせるような顔をしてリヴァイを見送った。