第144章 恋着
しばらくナナの胸から直接感じる鼓動と、背中から感じるとんとん、と言う振動に身を任せる。
なるほど、悪くない。
ナナが以前すぐに寝息を立てたのもわかる。
―――――とても心地良くて、落ち着く。
と、その時ナナの手が止まって、ぱた、とナナの手がベッドに投げ出された。
「――――おいっ……!」
鼓動が止まる想像をしたばかりだった俺は、ナナの手が力を失ったことに恐怖すら覚えた。
身体を起こしてナナを見下ろす。
苦痛に歪む顔がそこにあったら、俺はどうすればいいのか。
「――――ナナ――――………!」
ナナの顔に手をやって、前髪をかき上げてその顔をよく観察する。
――――ナナは、あどけない顔で寝息を立てていた。
「――――てめぇが寝るのかよ……。」
はぁ………と長い溜息を零すのにも、もう慣れた。
病の症状の一つに、疲れやすいと言っていた。それも関係あるのか。
何とも言えない想いを持て余しながらナナの耳の後ろの髪に指を通してさらりと梳く。――――いつかエルヴィンを抱いて眠っていたナナに付けた、耳の後ろの俺の印はもう消えていて――――、またその身に刻んでやろうかと唇を寄せる。
――――出血しやすい病なら、さぞかし綺麗に真紅の花びらをその耳の後ろに散らせるだろう。
「――――………。」
俺はナナの耳の後ろに、小さく口付けようと唇を寄せて―――――やめた。
俺の印は、残らなくていい。
俺のものじゃなくていいと言ったのは俺自身だ。
「――――ただ側で笑ってろよ、いつまでも。」
小さくその耳元で囁くと、あの頃の―――――エイルの寝顔で、ふふ、と柔らかな笑みを零したように見えた。