第144章 恋着
「――――……甘ぇよ。」
「……ですよね、わかっては、いるんです。エルヴィン団長にも言われました。」
「――――だが、それがお前だ。」
だから焦がれる。
だから触れたくなる。
俺に無いものを、一人一人の命と向き合って、誰の命も大切にするお前といると――――……俺は血の通った人間でいられる気がするんだ。
ナナの体温と匂いに触れると、自分の中に欲が渦巻く。
――――あぁクソ、ずっと離れていたからな……。
愛しい。
可愛い。
触れたい。
――――抱きたい。
ナナの肩にほんの少し力を込めると、ナナは簡単にベッドに倒れ込んだ。
「リヴァ……。う、わぁ……っ!」
ぎし、とベッドが軋む音と、ナナの見開かれた濃紺の瞳。どうする、お前は……俺を、拒むのか?
目を細めて、欲情している眼差しをあえて向けると、ナナは『あ』と何かに気付いた顔をした。
「あっ、そうか……簡単に男の人の部屋に入っては、いけないんでした。」
「――――気付くのが遅ぇよ。」
「マズい状況ですか、これは。」
「マズいだろうな。俺はもう力づくでどうにでもできる。」
「――――困りました。」
「困ってねぇだろ、その顔は。なんだその余裕の表情は。」
俺が追及すると、ナナは切なそうに小さく笑って見せる。
「――――だってやっぱり、怖くない……。」
「あ?」
ナナが意味深に一言呟いて、涙を溜めた目を俺に向けた。
「――――側にいさせてくれて、ありがとう……リヴァイさん……。」
――――くそ………その顔で笑うな。手も出せねぇ………。
「――――狡い女だな………。」
俺が身体を預けてナナの首筋に顔を埋めると、ナナは遠慮がちに俺の背中をとんとん、と鼓動に合わせて小さく叩く。
―――少し遅く感じるのは、ナナが自分の鼓動に合わせて打つからだ。
――――いつかこれが弱く、小さくなって―――――
……最期の鼓動を打つ時、
俺は―――――………どうなるのだろうか。