第144章 恋着
「……お前、ケニーが何人殺して何してきたか、記憶トんでんだろ。」
「……失礼ですね、覚えてますよ。――――でも………信じるものが違えば、血は流れるから……。」
ナナはムッとした顔をしつつ、何と表現したらいいのか、と言った様子で言葉を選びながら自分の思いを話した。
「………だから……仕方ないって言葉で片付けるわけじゃないですが……、その人の背景や環境や、信じるもの……愛した人、守りたいものがそれぞれある以上、簡単に憎むなんて、できないです。」
「―――――………。」
ナナはまた、俺にはない考え方を話して―――――、俺はただそれに驚く。
こんなにも一緒に時を重ねてもなお、まだお前は新しい感情や考え方を俺に芽生えさせる。
俺はナナを傷付けたビクターのことを、本当に殺す気でいた。あいつが何を愛したか?どんな環境で育ったか?そんなことはどうでもいい。
ただ“俺のナナを傷付けた”その事実だけで、殺すに値するものだ。
「――――例えばマシューさんも、アーチさんも………私達と敵対することになって……血も、流れたけど……彼らには彼らの守りたいものがあって、信念があって、愛すべき人がいて――――……だから、甘いって言われるかもしれないけれど……私は、殺したくない、殺させたくないんです。」
ナナは小さく呟いて、目線を落とした。