第143章 我儘
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厩舎で相対した時のリヴァイさんの目が、様子が、いつもと違ったから。
それはきっと唯一の肉親を亡くしたことや、それにまつわる過去や色々なものが――――、大きく胸の内で蠢いていて苦しいんだろう。もしその胸の内に渦巻く何かがあるなら聴いて受け止めたいと思った。
……だって、私はもう戦えない。
壁外にも出られない。
誰も救えなくて、誰の力にもなれないから。
せめて―――――その心に寄り添うことくらいは、出来るんじゃないかって……そう、思った。
――――でも、リヴァイさんの言う通りだ。
散々我儘を言って、忠告も聞かないくせに……都合よく寄り添いたいなんて聞き入れてもらえなくて当然だ。
だから私がリヴァイさんの言葉に傷つく権利なんてなくて。
泣く権利だってなくて。
必死に目線を彼から逃がして――――、涙を堪えた。
微かに震える指で無意識に自らの唇に触れていたその仕草で思い知る。
――――どうやっても私は忘れられないんだ。
あの温度を――――感触を。
あの――――、胸の奥をかき乱すような熱情を。
呆然としていた私を置いて、リヴァイさんは部屋を去った。
しばらくその場を動けずにいると、コンコン、と扉が鳴って――――誰かが戻って来た。
「は、はい……どうぞ……。」
「………ナナ?」
遠慮がちに扉を開けたのは、ハンジさんだった。
「ねぇナナ、まだナナの部屋って借りれてないからさ、良かったらしばらくは私の部屋で――――……。……どうしたの、ナナ……。」
「――――ハンジ、さ……。」
とても堪えられなくて、ぼろぼろと涙を零してしまった私をハンジさんはぎゅっと抱きしめてくれた。
何も聞かず、何も言わず……
ただ髪を撫でて、私が落ち着くまで――――、
ハンジさんは側にいてくれた。