第143章 我儘
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なぜこういう時に限って、その目をする。
意志の強い目。
決して逸らさない――――、目の奥に、心臓に、直接訴えるようなその目。
――――俺が惚れた、お前の強さだ。
ナナが死ぬ?
ある日突然また、倒れて―――どうなる?
血を吐いて、苦しんで、死ぬのか?
―――ありえないだろう。想像すらしたくない。
「―――駄目だ。」
「―――……ねぇリヴァイ……辛いのは分かるけど、でもナナの選択を―――……。」
ハンジが俺を諭そうとするが、俺は数%でも、ナナが生き延びられる可能性がある方に賭ける。横目でハンジの言葉を受け流すと、ずっと黙っていたエルヴィンが口を開いた。
「――――君の判断を信じよう。許可する。」
「…………!」
ナナはぱぁ、と明るい表情を見せた。
が、気に食わねぇ。
やはりこいつは―――、ナナが死ぬとしても、その瞬間までてめぇの鎖に繋いでおかねぇと気が済まない野郎だ。
「おいエルヴィン、勝手に許可してんじゃねぇよ。俺は納得していない。」
「リヴァイの言い分も分かる。だから無条件にとは言わない。聞いた症状から察するに、“体力の低下”と“怪我”が死に繋がる危険性があるなら、壁外調査にはもちろん出さない。そして一週間に一度は必ず通院しろ。深夜を回っての執務も許さない。」
ナナは『壁外調査に出さない』という言葉にぴく、と反応したが、口を結んで小さく頷いた。
あいつの“自由の空”へ飛び立つ夢が、遠のくことになる。
いやむしろ……達せなくなると言っても過言じゃない。が、ナナは了承して頷いた。
「――――はい………。」
「あくまで団長補佐の仕事に専念することになる。訓練や立体機動は全て諦めてもらう。それでもここに居ることを望むのか?」
「はい。」
曲げねぇ、か。本当にとことん強情な女だ。
「――――分かった。では残れ。これからも補佐として宜しく頼む。」
エルヴィンの言葉に嬉しそうな顔をしたナナが――――、小さく俺に『ごめんなさい』という目線を向けた。
俺は目を合わせなかった。