第143章 我儘
「――――もう一つあるだろう、お前も。ナナ。」
そのリヴァイ兵士長が、話題を断ち切るように私へと目線を送った。そうだ、私は話さなくてはいけない。
自分の、体のことを。
「……はい………。」
私は現在自分が患っている病気の話を端的にした。
血液の異常であることと、出やすい症状などだ。みるみる3人の顔が驚愕と悲愴に満ちた表情に変わる。
――――大変な時期に、私のことで乱してしまって本当に申し訳ないと、小さく肩をすくめると、エルヴィン団長が口を開いた。
「………調査兵団に戻らず、治療に専念したほうがいいはずなのに――――……戻って来た理由は……なんだ。」
困った質問だ。
湿っぽい空気にはしたくないけれど、でも事実をちゃんと伝えなければならない。
「――――治療法が、なくて。」
「――――なに……?」
「……嘘でしょ、ナナ……。」
「――――………。」
エルヴィン団長は愕然とし、ハンジさんは動揺し、リヴァイ兵士長は――――、黙ったまま腕を組んで俯いていた。
「――――ただ不思議なのは、今までの症例だと……自覚症状があってからわりと進行が早く1ヶ月足らずで死に至る場合が多くて……なのに私は、体力さえちゃんと維持していれば劇的な進行は見られず、比較的進行もゆるやかで今のところ元気です。なぜだかはわからないのですが。だから……この動ける時間を、ベッドに伏すまでの時間を、皆さんの側で……過ごしたくて――――戻って来ました。」
「―――待てナナ、それでも、王都の優れた病院でなら、君の進行が遅い理由を解明して治療に当てられる可能性だってあるだろう。だったら……。」
エルヴィン団長が疑問を投げかける。
それは私も思ったけれど。
――――でも、ダメだった。
離れる事が辛すぎて――――、きっと私はみるみる衰弱して、エルヴィンが言った、“一人ベッドで死ぬ”ことになる気がするんだ。
だから――――、倒れるその時まで、側にいたい。