第142章 初口
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驚いた。
ナナがそこにいたことに。
なぜだ。
ロイに連れ帰らせて――――、病気じゃなかったということか?それとも逃げ出して来た?いや、まさか……だがこいつのことだ、ありえる。
そしてもう一つ、俺の目を見てすぐにどうした、と問いやがる。――――俺はそんなに、情けねぇ顔をしていたのか……。
悲しいのか、苦しいのかと問われた時、俺はケニーが死んだことに何かを感じていると初めて自覚した。
ケニーが俺の部下の頭を吹っ飛ばしたことも、アリシアやリーブスを殺したこともとても赦せることじゃねぇ。
だが――――、ケニーが息を引き取ったあの時の、名前を付けられない感情をナナはまたもや感じ取った。思わず縋るようにナナを抱き締めたその行動は、ナナの言う通り――――、ただの俺が……何かを求めての行動だった。
「――――悪い……。」
「いえ………。」
ナナの温もりを得て、少しずつ感情が解きほぐされていく。体を離すと――――、そこには変わらないナナの柔らかい笑顔があって、これを守るためにお前を遠ざけたのに……とまたため息が出る。
「――――俺の姓が、わかった。」
「え………?」
「アッカーマン……というらしい。」
「!!ミカサと……同じ……!」
「ああ、同じ一族らしいな。」
「――――やっぱり、この強さは……アッカーマン一族の持つ、力なのでしょうか……?」
「………だろうな……。」
俺自身が何者なのか。ずっと知りたかった。
母さんが娼婦であったということと、客との間にできた子であったということしかわからないまま生きて来て、ナナと共に地下街の実家で昔の事を繙いていったあの日、俺の中で母さんが鮮明に呼び起こされて――――、それでいいと思った。
父親が誰だとか、血の繋がりがある人間が他にいるのか、だとかは、どうでもいいことだと。
だがふいに――――、ケニーが血縁関係にあると知った。
アッカーマン一族が特殊な一族であるという、情報の片鱗も。
巨人の謎に関わっているのか、いないのか。
色んな事が一気に頭の中に押し寄せて――――混沌としていた。