第142章 初口
「あ、あの………。事情は、あとで……エルヴィン団長とハンジさんにも――――リヴァイ兵士長にも、ちゃんと話します……。」
「―――――………。」
リヴァイ兵士長は鞍を足元に置いて、斜め下に顔を俯かせて長くため息をついた。
怒ってる、無理もない……どこまでも言う事を聞かない私に呆れてるんだ。
「――――謝りたくて………。」
「………あ?」
「私を心配して、ロイを呼んでくれたのに………。」
「…………。」
「………私、また……役に立たないからもう要らないという意味かと、思って……ちょっとだけ、ほんの一瞬、リヴァイ兵士長を恨みました。」
「…………。」
「――――リヴァイ兵士長が……そんなこと、思うはずないのに……。私を大事に想ってくれていること、苦しいほど知っていたのに――――ごめんなさい……。」
少しの沈黙のあと、リヴァイ兵士長がつかつかと私の方に近寄って来る。
後ずさってしまいそうなのは――――、言う通りにしなかったことで、私を心配するその気持ちを踏みにじってしまったことへの申し訳なさと、ダミアンさんにされたことがバレないか、という一抹の不安と―――――、もしその指が、体温が私に触れたら―――――、きっと泣いてしまいそうで、怖いからだ。
でもきっとそれは大丈夫。
まだ厩舎には他の兵士もいて……、今彼は“兵士長”だから。
私が気持ちをちゃんと強く持てば、ちゃんと振る舞える。
私の目の前まで来て足を止めた。
恐る恐るその目を見上げて覗き込んで、私は思わず驚いて言葉を発してしまった。
「――――どう、したんですか……。」
「………あ?」
私の問に、リヴァイ兵士長は不機嫌に何のことだ、と意味を込めて言葉を漏らした。
彼のその目が、いつもと違うから。
辛いのか、悲しいのか――――不安なのか、わからないけれど……何かが胸の奥でずくずくと痛んでるんじゃないか、そう思った。