第142章 初口
「えっ、どうして……もういいのか?体は……?」
エレンが動揺しつつ私の両肩を優しく掴んで、自分の体から引きはがした。そのカルラさんにそっくりな大きな瞳で、私を見つめる。
病気のことは――――、エルヴィンと、リヴァイさんとハンジさんにしか話さないつもりだ。
だから、笑顔で答える。
「――――うん、大丈夫。」
私の一言に隣にいたハンジさんは察して、切なげに目を少し細めた。私は目くばせをすると、ハンジさんは“わかった、言わない”と小さく頷いてくれた。
「――――エレン、辛いことも痛い事も、しんどいこともあったでしょう……?」
「………ねぇよ、大丈夫だ。」
「………ふふ、強がっちゃって。」
「強がってねぇ……!」
「エレンはそりゃもう頑張ったよ。でもエレンが頑張るのはさらにこれからだ……!硬質化の実験も、ウォール・マリアを取り戻すのに本腰を入れて行かなきゃね!!」
「はい。」
「――――硬質化??そんなことができるの……?」
「……色々、あったんだよ………。」
「そっか……、また、聞かせてね。」
「……ん………。」
エレンの表情から、とても健やかな精神状態でい続けられたわけがないとわかる。
目の前で自分の為に仲間が死ぬ辛さは――――……多少なりとも私も分かる。自分の無能さに打ちひしがれるのも、わかる。
でもきっとエレンは今強くなろうとしているから……この子から甘えて来た時に、私は寄り添おう。
どんどん強く――――少年から大人になろうとしているこの大事な人を、もう少し見守っていたいと――――そう思う。