第142章 初口
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王都、兵団本部に着いたのはもう日が暮れてからだった。
敬礼をして門を通る。
心臓を捧げるその敬礼に、背筋が伸びる。
還ってきたかった、私の居場所。
みんなの姿を探して廊下を行くと、黒髪で長身の――――、背に一角獣を背負った、少し強面だけれど困っている私を放っておけない優しさを持ったその人を見つけた。
「――――ナイル・ドーク師団長!!!」
思わず駆け出す私のほうを振り返って、ナイル師団長はぎょっとした顔で私を見下ろした。
「お前……補佐官!!」
「……何度も言いますがナナです。いい加減覚えてください。」
「……なんだ、エルヴィンならまだ会議中だぞ。」
「いえ、ナイル師団長に御礼を言いに参りました。」
「……いやいい。これからも励めよ。じゃあな。」
ナイル師団長は面倒臭そうに手で私を追い払う仕草をして、すぐに背を向けて行ってしまった。
私はその後ろ姿に向かって、心からの感謝の言葉を伝えた。
「……ありがとうございます!」
その言葉にぴた、とナイル師団長が足を止めて、小さく振り返った。
「――――調査兵団の奴らなら、一部は礼拝堂の捜索に出ててもうすぐ戻る。……ハンジやエレンは3階の部屋にいる。」
「………!はいっ!」
――――ほら、やっぱり放っておけないんだ。
私が満面の笑みをナイル師団長に向けると、バツが悪そうに目を逸らして――――、今度こそ行ってしまった。