第142章 初口
「……お前は何だ?英雄か?」
「――――そうだ。俺は…………ただ一人の―――――そいつにとっての、英雄でいたかった。」
「――――……は………あの、女か………。」
ぜいぜいと息を切らし血を吐きながら、ケニーは僅かに……口角を上げた。
「ケニー、知っていることをすべて話せ。初代王はなぜ人類の存続を望まない?」
「……知らねぇよ。だが……俺らアッカーマンが対立した理由は……それだ……。」
大きく咳き込んで吐き出された血が、頬に飛んだ。
――――この血はもしかしたら、俺と繋がっているのかもしれないと………頭によぎった。
「俺の姓もアッカーマンらしいな?あんた……本当は……母さんの何だ?」
「ハッ……バカが……ただの………兄貴だ……。」
ケニーはまるで“親父だとでも期待したか?”とでも言いたげに、笑った。
――――死にかけていた俺を連れて生き方を叩き込み――――、俺が10になる頃にケニーは突然姿を消した。
その最後に見た後ろ姿を、背中を――――俺は覚えている。
ふいに口をついて出たその疑問は、あの頃の――――、ガキの頃の俺が問いたかったそれだ。
「あの時……何で俺から去って行った?」
何の答えを期待したのか。
俺のためだと言って欲しかったのか、俺が邪魔になったからだと言って欲しかったのか。
だがケニーの答えは、どこまでもケニーらしいものだった。
「俺……は……人の……親には……なれねぇよ……。」
――――死にかけのガキを拾って食わせ、1人で生きていく方法を叩き込み――――、1人で生きて行けるよう見届けてその手を放す。
やり方はどうであれ、それを――――“親”と呼ぶんじゃねぇのか。
少なくとも………俺は―――――……。
その時、ケニーがどん、とロッド・レイスの注射器の入った箱を俺の胸に託すように押し当てた。
「……ケニー………。」
その名を呼んだ時にはもう、ケニーはこと切れていた。