第140章 兄弟
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天井が崩落する。
――――不思議とそこまで焦りもしない。
ああ、俺の番が来たんだなと思うくらいだ。
他の兵が慌てふためく中、俺は冷めきった思考の中――――、思った。命の終わりなんてあっけない。ここで俺が死んでも、誰に何の影響も与えない。もう、満足に足も動かないし……例えばリンファが生きていたなら、どうやってでも―――――この命に代えても兄貴を守って見せるけど。
そのリンファももういない。
むしろ、リンファに会いに――――、やっと逝ける。
「………ッおいアーチ!!!!何してる!!!!そんなところに突っ立って、死ぬぞ!?」
珍しく怒声をあげるのは、カーフェンさんだ。
すみません、最後もあまり役にも立てなかった。
俺は結構、あなたが好きだった。
裏も表もなく、ただ自分の信じるもののために刃を振るうあなたが綺麗だと思った。
――――気にかけてくれて、嬉しかった。
「……まずいな、隊長を探すぞ!!あの人を失ったら、我々の野望は潰える……!」
そうだ、行ってください。
俺はいい。
あなたはあなたの信じる人の力になれる。カーフェンさんは洞窟の奥にケニー隊長を想って目線を送り、再び俺に目線を戻した。比べる余地なんてない。早く――――、行って。
カーフェンさんが吹っ切れるように、迷わなくていいように、俺は立体機動装置を放棄した。がしゃん、と音を立てて装備が転がる。
カーフェンさんは苦々しい顔で、俺に向かって叫んだ。
「――――甘ったれてんじゃないよアーチ!!!逃げるな!!兄貴に負けて、それでいいのか?!?!」
「――――いいんです。端から俺は、兄貴になにも………敵わないから。」
ごごご、とまた天井が揺らぐ。カーフェンさんがぎゅ、と目を……苦しそうに閉じた。
「――――悪いな、俺の弟は――――……意固地でよ。力づくでしか、無理なんだわ。」
「!!」
ぎゅん、と凄い勢いで俺の前に降り立ったのは―――――兄貴だ。