第140章 兄弟
その言葉とその目は、俺への牽制だ。やはりお見通しだ。
――――俺が大義名分を掲げてやろうとしていることは――――、全て愛する彼女と生きるため、自分の夢を叶えるための私利私欲だということを。
「―――お主の提案に乗ったのは、それが人類にとって最善じゃと思うたからじゃ。その結果……王政に付くべきじゃと風が吹けば……ザックレーと争うことも、覚悟しとった。」
――――この方こそ、人類を導くに相応しいのではないかと思う。今の言葉もまた………今後の選択の度に衝突が繰り返される可能性を示唆し、自らの覚悟を示すためのものだ。
そして同時に――――俺への、牽制だ。
「……とまぁ、儂ら革命直後のお仲間同士でさえこの有様じゃ…。いつか人は争いをやめると誰かが歌っておったが、それはいつじゃ?」
少しの絶望を見たようなピクシス司令の背中を見届ける。そして、モブリットから出撃準備完了の報告が飛んだ。
「団長!総員準備が整いました!いつでも行けます!!」
――――人は争いをやめる時が来る?
俺は―――――そんな時は来ないと確信している。
なぜなら……人は望み、求め続ける生き物だからだ。
生きるためという最低限の欲だけでは飽き足らず、豊かになればなるほど――――多くを求め続ける。そしてそれはいつか―――――干渉する。誰かの欲が、誰かの欲を満たすことを妨げる。
そしてそれは―――――争いになり、対立になり、戦争になる。
ナナと夢見た外の世界。
あの類まれな優れた言語を使う文明が滅びたとすればそれは――――、欲が齎した人間同士の争いに他ならないとさえ思う。