第140章 兄弟
兵団拠点では、これからエレンとヒストリアを奪還するための派兵準備が進んでいる。まもなく準備も整い、私は兵を率いてレイス卿領地の礼拝堂へ向かう。
そんな作戦は私たちに任せたまま、ザックレー総統は積年の鬱憤を晴らすかのように、元王政幹部の者達にあられもない拷問を執行していた。それに対して呆れ顔でピクシス司令が私の元にやって来た。
「まずいのう……。」
「どうされましたか、ピクシス司令。」
「王政幹部が皆同じ事を吐きよった。お主と父君の仮説……ナナの推測通りじゃ。――――レイス家は人類の記憶を、都合よく改竄できると言うわけじゃ。しかも奴らを含む一部の血族はそれに影響されないという口ぶりじゃったぞ。」
「………そんなことが……。」
「レイスがエレンの持つ“叫び”さえ手にすれば、民衆の反乱なんぞこともなしというわけじゃ。」
「……なるほど、そんな重要な情報さえ我々はいずれ忘れると。」
ピクシス司令ははぁ、とため息をついて何かを憂いた。
「それにしても……あれが生涯を捧げてやりたかったことだとはのう……。」
ピクシス司令の憂いは、長年共闘してきた友が―――――、民衆を虐げてきた罪を負っているとは言え、人間の尊厳を踏みにじるような恥辱を与える拷問を喜々としてしていることに対してだろうと容易に想像がついた。
そして、彼はナナと同じく、気付いていたのだ。
ザックレー総統の野望に。
「司令、知っていたのですか……。」
「む。口が滑ったな……。いかにも、あやつの野望には感付いておった……。儂はお主と違って賭け事は好まん……。また、お主らと違って……己よりも生き残る人類の数を尊重しておる。」