第139章 苦闘
「この世界を創り、この世の理を司る。全知全能にして唯一の存在へとお前はなるのだ。それをなんと呼ぶかわかるか?―――――神だ。我々はそれを神と呼ぶ。」
――――ロッド・レイスがウォール教を作り、それが力を持ち王政にまで口を出すようになったのは――――父のこの思想のためだ。
神?
私が?
――――そもそも、それは神なのか……?
神だと言うなら、全知全能だと言うなら、この残酷な世界を変えることが出来るはずなのに。それをしない理由も伏せて、自分だけがその理の中で生き続ける。それが私の使命……?
でも、お父さんはそれを望んでる。
その時、あの日の――――ウトガルド城の塔の上でユミルが言った言葉が、鮮明に思い出された。
『――――お前、胸張って生きろよ。』
自分を愛してなどいない父親の愛を求めて流されて、受け入れて、自分を無理矢理納得させて――――言う通りにする。
それで本当にユミルに言える?
“私は胸を張って生きてる”って。
――――違うよね、ユミル。
私たちは―――――もうこれ以上、私たちを殺さないって、私たちのために生きるって、言った。
私は父の手を振り払って、注射器を投げ捨てた。
それは脆く崩れ去り、それと同様に――――父が被っていた仮面も、崩れ去った。思い通りに動かなかった私に激昂した父が私の肩を掴んで激しく揺さぶる。
「……ッヒストリア!!!!!」
怖くない。私は私のために、誰にも利用なんてされない。私は父の胸元を掴んで、力の限りの背負い投げを喰らわせた。
「何が神だ!!!都合のいい逃げ道作って都合よく人を扇動して!!!もうこれ以上、私を殺してたまるか!!!」
私はロッド・レイスの鞄を抱えてエレンの元に走る。
鍵を外して――――一緒に逃げるんだ。
そしてまた考えればいい。
これからのことなんて、これから。
生きていれば、何度だってチャンスはある。
そうでしょう?ねぇ、ユミル。