第139章 苦闘
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―――――エレンが、あの頃の自分に見える。
いらないんだって思った。
お母さんも、お父さんも、私のことなんて、いらないんだって。
でも違った。
お父さんは私のことを必要として、こうして会いに来て――――抱き締めてくれた。そして、私には使命がある。
巨人になって、お父さんが望むように――――エレンを食べて、この世の人類の記憶まで司るような力を手に入れる。
――――でも何かが引っかかって、注射器の液体を体内に注入することが躊躇われた。
そう、なぜ?
なぜあんなにも平和を願っていた姉さんが――――――巨人の脅威を排除するために戦わなかったの?人類をこの壁から、解放しなかったの……?
「どうしたヒストリア……怖いか?中の液を体内に押し込むだけでいいんだぞ?」
刺した針の穴から、血が流れる。
「―――お父さん、どうして姉さんは戦わなかったの?ううん、姉さんだけじゃない……これまで100年ものあいだ、どうして誰一人その力を持っていながら、人類を解放しなかったの……?」
そう、思い出した。
姉さんは時々人が変わったみたいになってた。何かに取り憑かれたように……『私たちは罪人だ』とか言って……。
それは……失われた世界の記憶を継承するからなの?初代王の思想も受け継ぐという……。
「……この壁の世界を創った初代レイスの王は、人類が巨人に支配される世界を望んだのだ。それこそが――――真の平和だと信じている。なぜかは、わからない。世界の記憶を見た者にしか。」
お父さんは私の手を掴んで、注射器の液体を押し込むよう誘導するように力を込める。
――――怖い。
この異様なまでの執着はなんだ。