第139章 苦闘
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遠くで銃声や発破の音が聞こえる。
調査兵団が来たんだ。
―――――兵長、ミカサ、アルミン……そこにいるのか……。ロッド・レイスは黒皮の鞄の中から、厳重に保管されていたのであろう様子の注射器を取り出した。
――――あれは、見たことがある。
俺の記憶の中で――――父さんが俺の腕に刺したものと同じだ。巨人化させるための――――注射。
「いいか?ヒストリア。おかしな話に聞こえるだろうがフリーダはまだ死んでいない。」
「え……?」
「フリーダの記憶はまだ生きている。姉さんに会いたいか?」
「うん……会いたい……。」
「!!」
やめろヒストリア。
それは――――その注射器は、お前を化け物に……巨人化させるためのものだ。口を封じられて、でも何とか伝えたくて、拘束された手足をばたつかせて抵抗する。
「んんんんンッ!!!」
「なによエレン……そんなに睨んで。」
「彼に奪われた力は在るべき場所へ還るのだヒストリア。お前の中へとな。」
「え……?」
「この洞窟は今から約100年前、ある巨人の力によって造られた。あの三重の壁もその巨人の力だ。あの壁で人類を他の巨人から守り、更には――――壁内の人類が平和に暮らせるよう願い、人々の心にまで影響を与え、その記憶を改竄した。それもいくつかの血族を除いてだが……その末裔も他の人類も100年前の世界の歴史を誰も覚えていない。巨人がどこから現れたのか、誰も知らない。ただ一人……フリーダ・レイスを除いては……。」
――――なんだ、何の話だ。記憶の改竄?
巨人の力にはそんなものまで………?