第139章 苦闘
「――――なぁアーチ……っ、てめぇは昔っから、生意気で手のかかる弟だよ……!」
アーチの腿にアンカーを刺したまま、アンカーを巻き取る。
強固な岩や壁などにも打ち込めて、人間を引き寄せる力に耐えうるほどのアンカーだ。抜けることなく、アーチの身体は俺の方に引き寄せられる。
痛みに耐えながら、アーチは少し楽しそうに―――――笑った。
「……ッは……っ………、やりやがった、な……!」
銃弾は2発撃った。
弾の装填までは攻撃できない。こっちは刃だ。勝てる。
そう思ったけど、甘かった。
ギィンッ、と鳴った金属音は、アーチが俺の刃を銃身で受け止めた音。
金属同士が激しくぶつかったことで散った火花の先に、俺と同じ色の、よく似た目がそこにある。
「――――帰って来いアーチ。兄ちゃんのところに。」
「――――もう、遅い……っ!」
2人揃って空中で、何も身体を支えるものなどない。
衝突して勢いが死んでしまえば、重力に引き寄せられるのは当然だ。
このまま落ちたらただじゃ済まない高さだ。
俺はアーチの腿からアンカーを抜いて、近くの柱にアンカーを打ちなおす。アーチは腿から大量に出血していて、息が荒い。
それでも体勢を立て直して、アンカーを別の柱に刺した。
「――――勝負ついたろ。もう満足に戦えねぇよ。この勝負から降りろ。お前を死なせたくない。」
「――――嫌だ。」
「…………。」
「俺は兄貴に負けでいい。――――でも、俺達はこの戦いに勝つ。そして―――――この世界がひっくり返った、全てぶっ壊れたのを見届けて死ぬことにする。」
――――そう言い残して、血を滴らせたまま、煙幕の奥にアーチは消えて行った。
「アーチ!!!クソッ………。」
俺もまたぼたぼたと血が落ちる耳を抑えながら、更に奥で戦うリヴァイ兵長やミカサを追った。