第139章 苦闘
「思い出したか?父親の罪を。」
俺の頭の中でも覗いたかのように、ロッド・レイスは言う。
その横で――――小さくうめき声をあげたのは、ヒストリアだ。
「あぁ………!」
「どうした?ヒストリア。」
「なんで今まで……忘れていたんだろう。私は一人じゃなかった……。私にはあのお姉さんがいた……。」
「――――長い黒髪の若い女性であれば……それはおそらく、フリーダ・レイス。お前の腹違いの姉だ。お前を気にかけ時折面倒を見ていたようだな。お前の記憶から自分の存在を消していたのは……おそらくお前を守るためだ。」
「……記憶を消す?」
「ああ、しかしそれも……ここで彼に触れたことをきっかけに、お前の記憶の蓋も開いたらしい。」
「それじゃ……、フリーダお姉さんは今どこにいるの?会って御礼が言いたい……!」
ヒストリアのその言葉はまるで、俺を責めているように聞こえる。
だってそのフリーダを、食ったのは―――――
「フリーダはもうこの世にはいない。5年前ここで……彼の父親グリシャ・イェーガーに殺されたのだ。」
「――――………。」
「グリシャは巨人の力を持つ者だった。彼が何者なのかはわからないが……ここに来た目的は、レイス家が持つある“力”を奪うこと。グリシャが求めるその力とは、フリーダの中に宿る巨人の力だった。フリーダの巨人は全ての巨人の頂点に立つ存在……無敵の力を持つ巨人だった。だがそれを使いこなすには経験が足りなかったようだ。フリーダはその真価を発揮することなく、グリシャに食われ、力は奪われてしまった………。」
ロッド・レイスの語る過去に嘘はなかった。
少なくとも、奴の話と相違ない画が―――――俺の頭の中に、次々と父さんの記憶として蘇ってきたから。
「そのうえ彼は……我々一家に襲いかかった。レイス家を根絶やしにするためだ。奇しくもその場から生き残ったのは……私だけだった。」
「――――そんな……お姉さんが……。」
束の間の沈黙が流れたあと、ヒストリアが言い放った言葉は俺を侮蔑する、冷たいものだった。
「どうして……そんなひどいことができるの?」