第139章 苦闘
―――――目が覚めた。
そこは、まるでこの世のものとは思えない……だだっぴろく、壁が仄かに光を放つ神々しい空間。
ジャラ、と音が鳴る。
俺の両手も両足も拘束され、舌を噛めないよう口にも何かを噛まされている。まるで神聖な場所に捧げられた生贄のように俺は、張りつけられていた。
眼下に見下ろすのは――――、ヒストリアとその父、ロッド・レイスだ。俺が目覚めたことに気付いたヒストリアが声をかける。
「エレン?!起きたの?!」
「………んぅ……!」
「エレン……私のお父さんは、これまでもこれからも、この壁に残された人類全ての味方なの――――……」
ヒストリアはまるで洗脳でもされたかのように、父を庇うように、俺にその正当性を訴えた。そしてロッド・レイスは――――ヒストリアの手を引いて、俺が拘束されている高台まで上がってきた。
俺の背後に2人は立ち―――――、ロッド・レイスは言った。
「私たちが彼に触れるだけでいい。説明と言っても彼はここで起きたことの記憶がどこかにある。こうすれば彼は思い出すかもしれない……この場所なら少しのきっかけを与えるだけでもしくは――――……。」
背中に感じた二つの掌。
その瞬間、電気が走ったようが刺激が身体を駆け抜け―――――、俺の頭には、“誰か”の目線での記憶が次々に沸き起こった。
これは………なんだ。
この場所だ。
祈りを捧げている家族を――――無残に踏みにじった。
家族を守ろうとしたのか、鬼のような形相で巨人化した若い女。それを――――“この視線の持ち主”は、容赦なく食った。そして――――、家族を根絶やしにして歩きはじめる時に、見覚えのある実家の地下室の鍵を持った自分の手。
その手は、ガキの俺の手を引っ張り森へと連れ去り――――、泣いて抵抗する俺に注射を打った。
爆発でもするかのように、子供の風体の巨人が急に現れた。
その巨人は初めての餌に目を輝かせて――――、こっちに手を伸ばしてくる。
“この記憶の持ち主”が見たものだ。
そしてそれは―――――………父さんだ。
やがて父さんは巨人化した俺に――――、食われた。