第138章 悪党
「つまりだ。君らがやらなくても私がくたばる前にいっちょかましてやるつもりだったのだ。今回もピクシスと違って私は途中で白旗を上げるつもりは全くなかった。奴らの下劣さなどは私の保証済みであったしな……。」
ザックレー総統は本心を曝け出して語った。だがそれは、俺の本心を引きずり出すためだ。
「私はこの革命が人類にとって良いか悪いかなどには興味がない。私も大した悪党だろう。しかしそれは君も同じだろう?」
「……ええ、そのようです。」
「――――君は死にたくなかったのだろう?私と同様に人類の命運よりも個人を優先させるほど。君の理由はなんだ?――――ナナか?」
「――――はい。」
「――――ぜひ聞きたいね。ただ見てくれが綺麗だというだけで、君がここまで執着するはずがない。――――もともと腹に抱えていた君の野望とも、関係があるのか?」
「――――私はこの壁の外に人類がいると、外に世界は広がっていると信じ――――、その愚行で父を中央憲兵に殺されました。そして母は父の死によって壊れた。私は――――父の遺したこの世界の真実の仮説を立証することこそが贖罪だと思ってこれまで、利己的な理由で数多の兵士を死なせて来た。表向きは………“人類存亡のため”と嘘の大義を振りかざしながら――――……。」
「―――――……。」
「ナナは、外の世界への足掛かりを持っています。彼女は私の罪を――――夢に変えてくれた。彼女とともに見るこの先の未来を、彼女と過ごしたこれまでの記憶を、失うわけには――――いかなかった。」
「なるほどな。………君も大した悪党だ。」
「ええ。そのようです。――――ただ一人の女性と夢に溺れた、愚かな男です。」
認めよう。
そうだ、これがエルヴィン・スミスという男だ。
そしてこれからも――――、自らの欲望に忠実に俺は生きるのだろう。
――――最愛の彼女と共に。