第138章 悪党
「ここ数日の私の思いは……、仲間とは別のところにありました。人類を思えば私が常日頃仲間を死なせているように……エレンやリヴァイ……ハンジ、そして彼女の命を見捨て自分の命と共に責任を放棄し王政に全て託すべきだったのでしょう。人よりも……人類が尊いのなら……。」
「――――君の使命は相変わらず辛いな。死んだ方がはるかに楽に見える。」
「……総統、なぜこちらの険しい道を選んだのですか?」
「―――では君はなぜピクシスに助言したのだ?」
「――――………。」
「エレンを王政に託して今の立場から退きたいのなら、ピクシスにいらぬ入れ知恵をせず、君の部下にも勝手な真似ができないように指示すれば良かったのだ。」
「それは………。」
―――――お見通しだな、この人は――――……本当に、怖い人だ。
「君の質問に答えようか。私がなぜ王に銃を向けたのか?それは、昔っから王政が気にくわなかったからだ。」
ザックレー総統のその言葉に耳を疑った。
「……は?」
「むかつくのだよ。偉そうな奴と、偉くないのに偉い奴が……いや……むしろもう好きだな。思えばずっとこの日を夢見ていたのだ。人生をささげて奴らの忠実な犬に徹し、この地位に上り詰めた。クーデターの準備こそが生涯の趣味だと言えるだろう。」
「――――……!」
ナナの言葉を思い出した。
『本当は私たちに近い想いを持っていらっしゃって、でも何かの目的のために――――――王政への忠誠を演じているのかな、と思いました。』
「君も見たかっただろ?奴らの吠え面を!!偽善者の末路を!あれは期待以上のパフォーマンスだった。まさかあの歳でべそをかくとはな!だが本番はこれからだ……なんせ何十年もの間、奴らに屈辱を与える方法を考えていたのだからな!」
愉快そうに笑うザックレー総統の笑みは歪で――――、ナナが初めてザックレー総統に会った日にチェスを交わしただけでその片鱗を見抜いていたことに鳥肌が立った。