第138章 悪党
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「――――あの場面では、普通遠慮するものだぞ?エルヴィンよ。」
ナナを家に帰して、私たちはこれからやるべきことが山積している。まずは兵団本部に帰り、これからのことを話し合わねばならない。
兵団本部へ移動する馬車に乗り込んで来たザックレー総統が、腕を組んで呆れ顔で言った。
「――――申し訳ありません。どうしても―――……抑えられなかったのです。」
「はっ……お前らしくないな。……いや、本当のお前がそっちだったということか。女に溺れ、夢に溺れ―――、あとはなんだ?酒にでも溺れてみるか?」
「………そうですね、それもいい……。酒にも溺れたくなるほどの困難が、この先の人類には待ち受けているでしょうから。」
「………だろうな。頭が痛いわ。」
「――――人類を思えば、元の王政にすべてを託すべきでした。」
――――まるで懺悔のように、その言葉を口にした。
「王政がいくら浅ましく下劣であっても……今日まで人類を巨人から生き永らえさせた術がある。人類の半数を軽んじ見殺しにするようであっても、人類が絶滅するよりかはいい。」
「―――………。」
「エレンの持つ巨人の力やウォール・マリアの奪還計画も……エレンの命ごとこのまま彼らに託すべきなのかもしれない。」
それを口にしたところでもう後の祭りだ。
けれどこれで良かったのか、という思いが消えない。
――――“人類”を漠然とした命の集合体の呼称とみなし、俺は一人一人の人間の尊厳や記憶、生きた意味を――――……いや、大層に言おうとしているが、結局は最愛の彼女の笑顔を、自分の夢を、優先したんだ。
それは――――私利私欲でなかったと言えるだろうか。
彼らと――――何が違うのだろうか。
ただ純粋に人類の存亡の為に戦い散っていった仲間に、胸を張ることが憚れる。
それほど――――俺の罪は重い。