第138章 悪党
民衆のざわめきが始まった。
と同時に、その壇上からザックレー総統とエルヴィン団長が降りて来た。
ぼろぼろと、涙が零れる。
今にも飛びついて、抱き締めて大声を上げて泣きたい。
けれど駄目だ、今は私のエルヴィンじゃない。調査兵団のエルヴィン団長だ。ザックレー総統も、ピクシス司令もいらっしゃるのに……そんなみっともないことをすれば、エルヴィン団長が……困――――……。
色々と目を伏せて考えていると、その視界に誰かの足が見える。驚いて顔を上げた瞬間、ぐい、と粗暴に―――――その片腕に抱き締められた。
「――――えっ……?」
「――――ナナ………会いたかった。」
抱き締めたいと思ったのは私で、それは間違いないけれど、顔を横に向けると、ザックレー総統の呆れ顔が見える。
マズい、これは。
反対側を向くと、ピクシス司令もニヤニヤと今にも野次を飛ばされそうな顔をしている。
「――――あっ、あの、エルヴィン団長……っ……!」
「――――………。」
抵抗を試みても、一向にその片腕を解いてくれない。ぐぐ、と強く抱き留められて――――、彼の呼吸で、髪が揺れる。
「――――あぁそう言えば、まだエルヴィンの怪我を医者に見せとらんなぁ?ザックレーよ?」
「うん?あぁそうだな。これから記者の対応をしとる間に、馬車の中ででも診てもらえ。ちょうどそこに手頃な医者がいることだしな。」
お2人の言葉に驚いて目を丸くして、エルヴィンを見上げると……エルヴィンもまったく同じ顔で、顔を見合わせた。
そしてエルヴィンはいつものそつない団長の顔でふっと笑った。
「――――お心遣い、感謝致します。もう、痛くて痛くて。我慢ならないので――――お言葉に、甘えて。」
そう言って私の腕を引いて馬車に押し込めた。