第138章 悪党
――――私を追う者も、もういない。
私の髪は――――風になびいた。
そう、革命の風だ。
この小さな世界を変える――――
でもきっと、安寧の道が待っているわけじゃない。
むしろ……巨人の脅威もそのままに、壁の中の統治体制が変化する……より混沌としていくに違いない。
数台の馬車が処刑台の裏につき、民衆がざわつき始めた。
――――始まる。
ザックレー総統による、現王政の崩壊についての宣言が。
会える。エルヴィンに。
心臓がどくどくと騒ぎ立てる。
処刑台に現れたのは――――、ザックレー総統の後ろに、求め続けた彼の姿だ。
「………エルヴィン………っ……!」
視界が涙で滲む。すごく怪我をしてる。大丈夫なの?幻肢痛はもうない?痛い思い――――苦しい思いをしていない?心配なことはたくさんたくさんあるけれど――――生きてた。
それだけで、私は涙を堪えられなかった。
壇上に上がったエルヴィンはすぐに、私を見つけた。一瞬驚いた顔をして―――――ふ、と笑ったんだ。
ザックレー総統からの宣言が終わった瞬間に、私は駆け出していた。
会いたい。会いたい。どうしても。
この腕で抱き締めるって、言った。
処刑台の裏手に回ると、そこにはピクシス司令の姿があった。私は涙を拭って、最敬礼をした。
「――――ありがとう、ございます……!」
「………何をじゃ。儂は儂が信じたいと思ったものを信じただけじゃ。」
「……………。」
ピクシス司令は、意地悪だ。心の底からの御礼も、受け取ってはくれない。
「――――ただこのことが明るみになって――――、お主の弟もただではすむまい。それは覚悟のうえか?」
「――――はい、彼は彼の信念により……この結果を望みました。」
「――――そうか。」
「…………。」
「―――実に聡く、強く、美しい姉弟じゃな。弟を誇るがいい。」
「―――――はいっ……!」
「――――まだ終わってはおらん。エルヴィンを頼むぞ。」
「……はい……!」