第137章 革命
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もう、時間がない。
病院に帰らないと……必ず来る。ダミアンさんが、私を繋ぎ続けるために。
私はお父様に言われた通り、夕方の清掃会社の大きな荷物に紛れて――――ボルツマン総合病院へと戻った。
泥だらけで戻った私を見て、ボルツマンさんはまた呆れた顔をしてため息をつきながらも、頭をぽんぽんと撫でてくれた。
そして翌朝。
ダミアンさんは来た。
またもあの、毒々しいほどの黒薔薇を抱えて。
「ああナナ。良かった、目が覚めて……。」
私の手をそっと握る。重症患者のそれらしく、ぼーっとした視線をむけておくことにする。
そういえばさっき私が寝たふりをしていた中で、ボルツマンさんがダミアンさんに向けて説明した今回の吐血の理由が……聞けば聞くほどそんなことあるわけないようなことを、あまりにそれらしく言うから……途中で笑いそうになってしまったのをなんとか堪えていた。
「――――ねぇナナ、黒薔薇の意味を知ってるかい?」
「…………。」
「――――憎しみや恨み、そして、『あなたは私のもの』」
「…………。」
「これを決定付けるのが今日だ。……今日目覚めてくれたのも運命だろう。君をある場所に連れて行く。――――君の人生がきっと変わる。素晴らしい眺めを見せてあげるよ。」
にこりと笑むその顔が――――怖い。
私は言われるがまま、その日の夕方……人形のように抱き上げられて車いすに乗せられて、とある場所まで連れて行かれた。それは―――――
「――――処刑台……。」
「そう、エルヴィン団長は死ぬ。それを見届けるんだ。ちゃんとね。」
「――――………。」
街の中心部に建てられた、王政の理不尽な権力を誇示するようなその処刑台。
もう今、私にできることはない。
ただエルヴィンを、リヴァイ兵士長を、ハンジさんを―――――、ピクシス司令を信じ、見守るだけだ。
――――でももし。
エルヴィンがあの処刑台で命を落とす事になるのなら。
私はそこに駆けつけて、例え討たれても、一緒に行く。
最期まで。
そう、拳を握りしめた。
――――ロイには怒られてしまうかな。
でも、もう―――――決めたこと。