第136章 進達
「もちろんわかっています。だから彼らが悪である、人類にとって害である、と決めつける材料にはなりえないと。そういった力を駆使したからこそ100年この壁の中で人類は生きて来られた………これからも、多大な犠牲を払いつつも細々と永らえる術を彼らは確実に持っている。――――私たちが実権を握って、その未知なる力を使えずに――――、外敵から滅ぼされ朽ちるくらいなら、彼らにこのまま飼ってもらうという選択肢も――――あるのでしょう。」
「………そうじゃな。」
「――――………。」
「儂らは何を選んで、何を犠牲にするのが正しいのか………。」
ピクシス司令の肩にかかる負荷も、想像に耐えないものだろう。ほんの少し、その顔は昏く見える。
「――――私の愛する人なら、こう言います。『何が正しいかなんて、どうせわかりゃしない』と………。だから私は今も――――心のままに、後悔しないように……ここに来ました。」
「………馬に蹴られて死んでいても後悔しなかったのか?」
ピクシス司令の意地悪な問に、思わずふっと笑みがこぼれる。
「―――そうですね、それは少し恥ずかしいかもしれないです。」
「……ふふ……。」
「何が正しいかわからないですが、私は――――、壁の中で飼われるのはまっぴらです。だから私は外の世界に、壁の先に、海の先に行く……。それを阻む圧力を越えて行く。……私たちは、生まれながらに自由なはずなので――――……。」
「――――………。」
ピクシス司令は腕を組んで、思考を深めている様子だった。