第136章 進達
「――――もう一つ、重大な事実が。」
「………なんじゃ?」
「王政は――――疫病の強毒化研究を私の弟に秘密裏に指示をしました。」
「―――――なに……?!」
「そして間もなく完成する特効薬の精製権も握っている。」
「それは――――………。」
「――――例えウォール・マリアを取り戻さずとも……例えウォール・ローゼが次に破られようとも、彼らにとっては痛くもかゆくもないのです。人類同士の内戦が始まったとて―――――、“疫病”という便利なものが、望む通り人類の数を減らしてくれるのですから。そしてその特効薬を握っている限り―――――民衆は盾突けない。彼らにひれ伏すことになる。――――彼らの、思うままです。」
「――――それが本当ならあるまじきことじゃ。……だが、お前さんの言葉以外に信ずることができる証拠もなにも、ないのであろう?」
「はい。ありません。この話が――――私が愛する人を助けたい一心でついている嘘である可能性も、0ではありません。」
「――――………。」
「それでも……ご英断に繋がると信じて、参りました。もしこの話が真実でないと思われるなら。………もし王政転覆を謀る調査兵団を根絶やしにすることが人類にとって最善と思われるなら………どうぞ私にこのまま縄をかけて―――――エルヴィン団長と共に、死刑台に送ってください。」
こういう時は、ここぞという時には。
絶対に目を逸らさない。
逸らせば負けだ。
相手が頷くまで―――――、相手が目を逸らしたくなるまで、その瞳の奥を捕らえて離さない。
「――――そういう覚悟をした美女は、なおの事美しいの。」
「!!」
「――――果報を待て。」
「――――――はい!!!」
私は馬車から降り、手当をしてもらった少年にしては大げさに、深く深く頭を下げて―――――その馬車を見送った。