第136章 進達
明日からの事を話し合い、少しでも身体を休めるため、見張りを交代しながら仮眠をとる。
到底眠ることなどできずに、夜空を見上げる。
ケニーが執拗にナナのことを話しやがるからか―――――、どうにもあいつのことが頭にチラつく。
あぁそうか、今になって理解した。
ビクターを殺そうとした俺をナナが二度も、泣きながら止めた理由を。
あいつが医者だからじゃない。
無益な殺生がいけない事だとか、そういう道徳的な事じゃない。
――――俺に、“命を奪って心を削がれる”というこの苦しみを味合わせたくなかったのか。
俺がそんなものはとうに、感じることもできなくなっているなんて、思いもしなかったのだろう。
俺の手はこんなにも血で汚れていて―――――、……そうだ。
だから俺はあいつに最初―――――触れられなかった。
この世でもっとも綺麗なナナを、汚してしまうことが怖かったからだ。
それでもナナが手を伸ばしてくるから―――――この血まみれの手で、ナナを抱いた。
――――幸せだった。
俺には―――――過ぎるほどに。
――――何をこんな時に、感傷に浸ってるのか。
今更、あの頃に戻りたいと思ったところでそれが還ってくるはずもない。
………ただ、こんな時ほど――――――、ナナに会いたくなる。
………そして気になる事をケニーが言ってやがったな。
『王に次ぐ権力を持った奴が、ナナを欲しがる』……?誰のことだ、一体……。
そしてナナは今どうしてるのか。
エルヴィンは。
ハンジは――――……。
とても明るい未来など描けそうにない重苦しい空気が漂う夜、生暖かい夜風に吹かれながら―――――
パチパチと小さく音を立てながら燻り続ける焚火の揺れる炎を、見つめていた。