第136章 進達
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―――――ストヘス区。
葬儀屋の馬車から、棺が2棺降ろされて宿に入っていく。今日はここで一泊するのか。
――――どこの変態が2体の死体に囲まれて寝るってんだ。
――――あの棺の中身は……エレンとヒストリアだ。
「――――妙だな。今までの第一憲兵の手際とは違うようだ。リーブス商会をグルだと睨んだあたりといい……どうも思考が俺と被る。俺……というより……奴か……。」
「奴とは?」
街並みを俯瞰できる建物の屋根の上。
俺の隣で望遠鏡を覗き込むニファ。
その他にも、葬儀屋を監視するために数か所、人員を配置した。
「切り裂きケニーを知ってるか?」
「え?都の大量殺人鬼ですか?彼を捕らえようとした憲兵が100人以上も喉を裂かれたという……。でもそれは何十年か前に流行った都市伝説ですよね。」
「そいつはいる。すべて本当だ。」
「え?!」
「ガキの頃奴と暮らした時期がある。」
「えぇ?!どうしたんですか急に……兵長ったらこんな時に冗談言うなんて……。」
――――ナナの周りにチラついていた不穏な影……。
気にはなっていたが、行方の知れない奴がまさか中央憲兵にいるなんてことはあり得ねぇだろうと思っていた。
――――中央憲兵からすりゃ、仲間を100人以上惨殺された奴を仲間に引き入れるなんざ、狂気的な判断だ。
それに――――、何度かナナに接近をしていた時も、奴にしてはぬるすぎる。いくらでもナナの喉を掻き切る隙はあっただろう。
――――だが、ここまでの中央第一憲兵の動きと……リーブスの喉を裂いた太刀筋、判断の軸の類似―――――……もしかして――――……そう、嫌な予感がよぎる。
その瞬間、俺達のいる屋根の上に何者かが現れた。
確かな殺気と共に。