第136章 進達
「お母さま……。」
「……ナナ?!どうしたの、ロイが……ハルが、探していたのよ?!」
「……ちょっと色々、あって……。お願いがあるの……。」
「―――ええ。紅茶を淹れるから座って待ってて。」
「クロエさん、では私は……今日はこれで。」
「ああエミリー、今日もありがとう。」
「はい。……ナナさん、会えて嬉しかったです。また今度は、ゆっくりお話しさせてくださいね。」
「うん。ありがとう、エミリー。」
エミリーは察して、荷物を持ってその場を後にした。
母が淹れる紅茶は、なぜだかとても香りがよく立ってとても美味しい。
かちゃ、とカップをテーブルに置いて、母はただ私の話を聞いてくれた。
「――――そんな、ことが……。」
「うん、でも大丈夫……。危険な目には今までも遭って来たし――――、こうやって抜け出す隙を作るためにわざと……受け入れたふりをしたのは、私の選択、だから……。」
母は、むぎゅ、っと私の頬をつねった。
「―――大丈夫じゃないでしょう……!」
「………!」
「あなたの選択で、そうすることが最善だと思って――――、今もそうだと言うなら、それを間違ってるとは言わない。けど……っ……、決して、大丈夫じゃないの……。愛する人以外にそれを許すことを―――……まして虐げられることを、『大丈夫』なんて一言で片づけては駄目……!」
「――――うん………。」
ぽろりと涙を零した私を、母はぎゅっと抱きしめた。
「――――念のため、薬を処方して……欲しい……。」
「当たり前でしょう。すぐ準備するから。早めに飲みなさい。」
「………うん………ありがとう……。」