第12章 壁外調査
「だが、せっかく淹れてくれたコーヒーももったいないな。もしナナが飲めるなら、一緒にどうかな?」
エルヴィン団長は最後の資料の束を傍らに置くと、コーヒーカップを私に差し出した。
「いいのですか?喜んで!」
私はカップを手にとり、促されるまま近くのソファに座った。
とは言ったものの、私はブラックのコーヒーなんて大人の飲み物は飲んだ事がなかった。
それでもエルヴィン団長がせっかく進めて下さったのだから……と、おずおずとコーヒーに口をつける。
「!!」
思わずその苦味に眉間に皺が寄ってしまう。
まさか飲めないなんて言えず、平静を装う。
けれど、コーヒーは全然減ってくれない。ミルクティーにもできるように持って来ていたミルクを足せれば、多少は飲めるのかもしれないが……。
少々困りながら、チビチビとコーヒーを飲み進めていると、エルヴィン団長がフッと笑って言った。
「ん、ハーブティーも美味しいものだな。……だが、少しだけ物足りない。ナナ、コーヒーを一口もらっても、いいかな。」
「は、はいっ!」
私は慌ててコーヒーカップの口をつけていた部分を指で拭って、エルヴィン団長に渡した。
エルヴィン団長カップをグイッと傾けると、再び私にカップを返した。
「ありがとう。随分減ってしまったね、すまない。ミルクでも足して飲むといい。なんなら、砂糖もね。」
エルヴィン団長が少し悪戯に笑う。
やっぱり気付いていらっしゃった。
私は恥ずかしいと同時にその心遣いが嬉しくて、緩んだ頬が赤く熱を持った。