第135章 伝心
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「院長を呼んでくれ!!!最善の治療をするんだ、死なせるな……っ……、絶対に……!」
ナナを運び込んだ病院で、声を荒げるダミアンの元に――――、白髪交じりの、いかにもこの病院の長であると言わんばかりの貫禄ある紳士が歩みよった。
「――――ナナ……。そして……これはこれは、ライオネル公爵がわざわざ……。」
小さく礼をしようとすると、公爵はそれを拒んだ。
「そんなことはいい!早く……早く診てやってくれ……!治療費に糸目はつけなくていい……最善の治療を……!」
ボルツマンという男もまた、曲者揃いの医者があつまる中で着実に信頼を築き上げ、今の地位に上り詰めた人物だ。
その観察眼は鋭い。
ナナの容体を一目見て、彼はすぐに気付いた。
「――――いかんな。手術室に運べ。しばらく面会は謝絶だ。――――例え公爵であっても。」
「…………!」
呆然とする公爵を残して、ナナを乗せた担架はバタバタと病院の奥へと、消えていった。
「院長……!手術の準備、ですか……?!準備物がまだ……!」
ボルツマンに付き従う助手の看護師が焦った様子で問う。
「ああそうだな。あて布と消毒液、包帯ぐらいで十分だろう。」
「………?!」
「私一人でいい。全員出なさい。公爵にも――――誰にも他言無用だ。くれぐれも、今は緊急手術が行われているとしておくように。」
「は、はい……!」
手術室の扉をバタン、と閉めた途端、ボルツマンははぁ―――――、と長い溜息をついた。