第134章 恥辱 ※
「――――見返り、は、なんですか……。」
「――――わかっているでしょう?」
ダミアンさんが席を立って、こつ、と靴を鳴らして私の方へと近づいてくる。どくん、どくんと心臓がうるさく鳴る。
もし、もし――――……私が本当に大きな病だとしたら。
残りの命に限りがあるのだとしたら。
この駆け引きに、乗った方がいいのか。
この身と交換で世界の真実を――――エルヴィンに届ける。
ずっと叱られて禁じられてきた―――――“自己犠牲”の最たるものを、エルヴィンは―――――リヴァイさんは、怒るかもしれない。けど――――……。
頭の中で色んな事柄がぐちゃぐちゃに駆け巡って、収拾がつかない。ダミアンさんが私のすぐそばまで来て――――、そのグリーンの瞳で私を見下ろす。
「――――どんなことをしても、あなたが欲しい。その気持ちがどれほどのものか、わかってくれましたか?」
――――でも待って。
もし本当に人間の記憶を改竄できるなら。その秘密を例え私に漏らしたところで――――、消し去ってしまえることができるとしたら。エルヴィンにその事実すら、伝わらないまま――――もしくは伝わったとしても消し去られて、私はここにただ閉じ込められる。
「――――っ、お断り、します……!!」
「…………。」
「そんな駆け引きに乗ることを――――、私の愛する人たちは一番、嫌悪する……!それに――――……彼らは辿り着く。必ず。与えてもらった都合の良い“真実”なんかじゃなく、自分達で掴み取った―――――本当の“真実”と――――、その先の“自由”に……!」
ダミアンさんを鋭く睨みあげて、拒否の言葉を告げる。