第134章 恥辱 ※
「――――ナナさん。わざわざ来てくれるなんて。お見舞いの品に効果があったのかな?」
「……ライオネル公爵……。」
深々と礼をすると、ダミアンさんははは、と笑った。
「どうぞ名前で。―――せっかくのあなたとの時間を、立ち話では勿体ない。――――お茶でも、いかがですか?」
「――――……はい、お言葉に……甘えて……。」
豪華な部屋で出される紅茶は、いつもどうやって調べ上げているのか……甘い香りの、私の好むフレーバーだ。
「調査兵団から一時離団して療養していると聞いた時は血の気が引きましたよ。――――具合はどうです?……少し痩せたように見えますが……。」
「ええ……戻って来た時よりは随分良いです。――――だから、その……こんなにも豪華なお見舞いの品を受け取れず……不躾ながらお返ししようと、今日参りました。」
「………そうですか。気に入らなかったですか?」
「いえっ……、あの……。」
『私には勿体なくて』その場しのぎのよくあるセリフはこの方には通用しない。
それに――――、疫病のことだけでなく、王宮で私の身代わりにアリシアが貴族の人たちと身体を交えたというその噂を、私に不利に働かないように牽制してくれた恩がある。
無下に、できない……。
でも、ずっと想い続けてくださるその気持ちにも、どうしても応えられない。
素直に、伝えるしかない。
「――――過去に、学んだんです。気持ちに応えられないのに、贈り物を受け取ってはいけないって………。」
「――――以前僕の食事の誘いに乗ってくださったのは、算段あってのことだった、と。」
「――――……っ………、はい……。」
「まだあなたはエルヴィン団長のものなのですか?」
「――――はい。」
「――――まあね。知ってましたよ。そしておそらく僕の立場を利用して他の貴族を牽制するように言ったのも――――、エルヴィン団長だ。」
穏やかなグリーンアイが、細められる。
身体の芯が、びく、と震えた。