第133章 波瀾
ゆめうつつに、馬車が止まる音を聞いてしばらくしたあと、足音が聞こえた。
これは――――ロイの足音だ。
少しせっかちで歩幅が狭い、靴のかかとが鳴る歩き方。私の部屋の前で止まったと思えば、扉が鳴った。
「――――姉さん、起きてる?」
「ん………。」
私の声を確認して扉を開けたロイが両腕にたくさんの薔薇の花束を抱えていた。その後ろには大きなリボンがかかった幾つもの箱を、使用人たちが抱えている。
クリスマスでも始まるのか?と思うほどの煌びやかな……どう見ても贈り物だ。
――――もしかして……。
「――――おかえりロイ。それ………もしかして……。」
「ライオネル公からのお見舞いの品。」
「………やっぱり………。」
ダミアンさんとは初めて出会ってもう6年ほど経つ。
女性から引く手あまたで、欲しいと思った女性なら誰だって手に入れられるほどの人柄と地位がある。それなのにどうして頑なに私に執着するのか、それもよくわからない……。
ロイの腕に抱えきれないほどの薔薇は赤黒く―――――怖いような美しさだ。
その中にカードを見つけて、恐る恐る手に取る。
そこには一言“早くよくなりますように”と書かれていた。
「義兄さんがいるのに、まだ諦めてないんだね、ライオネル公。」
「……さすがに、お返事、書かなきゃ……。あと……そんなにたくさんの贈り物は受け取れないよ。お花だけ頂いておくから……ロイ、手紙と一緒にお返ししてくれない……?」
「……もらっとけば?」
「そういうわけにはいかないよ……。」
「仰々しく贈り物をすれば、姉さんは受け取らない。返しに来る―――――それを狙ってるんじゃないのかな。どう思う?」
「………確か、に……。」