第133章 波瀾
「姉さんの状態はよく知らないはずで、会いに行って良いものかわからないけど――――、会いたい。姉さんが会える状況なのなら、自分から来るかもしれない―――――なんて考えてたり。」
「………ううん、きっと私の状態は把握してる――――……。」
「え?」
「うちの使用人の誰かを使って……情報は得てるよ。あの人は―――――抜け目ないから。」
「………怖いねぇ。」
「ロイほどじゃないけどね。」
「……傷つくよ。こんなに献身的に看病してるのに?」
ロイは唇を尖らせて拗ねているとアピールする。
けれど私は―――――聞きたかった問を投げる。
「――――ねぇロイ。」
「ん?」
「――――私になにか―――――言えないこと、あるんじゃない……?」
「――――……ないよ?」
「――――本当に……?」
「………本当に。」
じゃあなぜ、唐突に――――――
疫病の特効薬の精製方法を私に教えたの?
自分がいなくなるかもしれないことを、やろうとしているのでしょう?………そう言いかけて………やめた。
「――――信じていい……?」
「――――僕の信じる道を、信じてよ。」
濃紺の瞳が私を映す。
私よりいくらか昏い色。
一見闇の色に見えるけれど――――本当はとても優しくて美しい色。
「――――うん………分かった………。」
私がうまく笑えないまま目線を落として呟くと、ロイはダミアンさんからのたくさんの贈り物をそのまま私の部屋に残して、出て行った。
ふと薔薇の花束に目をやる。
――――なんだろう、黒薔薇は綺麗なんだけれど――――なんだか、イメージが違う。
なんとなくだけど、彼なら私の髪の色に似た白い薔薇や――――目の色と似合うような明るい花を贈って来そうなのに。
毒々しいほどのこの赤黒い薔薇は、何を意味しているのだろう。
ほんの少し、彼を怖いと思った。