第12章 壁外調査
壁外調査まであと一週間。
幹部をはじめ、各隊長の皆さんも準備に追われている。私は壁外調査には行けない分、雑務をなるべく引き受けるために早朝から深夜まで走り回る。
夜中、エルヴィン団長の補佐業務を終えてから部屋に戻ると、月明かりの差し込む窓辺でアルルが月を眺めていた。
いつも早く眠るアルルが、どうしたのだろう。
私は静かに声をかけた。
「……アルル?まだ起きてるの?」
「ナナ………。」
アルルは笑顔で振り向いたが、どこか怯えたような様子だった。
「……眠れない?」
「うん………。」
私はアルルのとなりに腰かけた。
ふと見ると、アルルの手元にはくしゃくしゃになった手紙のようなものが握りしめられている。話したくないかもしれない。私は何も言わず、アルルと同じように月を見上げた。しばらくして、アルルが口を開いた。
「両親がね、毎週手紙、くれて……。」
「うん。」
「うちの家は小さな牧場でね。乳牛を育てていて。小さいころから、乳しぼりをよく手伝わされたの。ウォール・ローゼとウォール・マリアの間の山間にあった村だった。」
「ウォール・マリア………。」
「そう。壁が壊されて、両親はなんとか巨人に襲われる前にウォール・ローゼの中に逃げ込んだから無事だった。……でも、もちろん大切な牛たちも、家も、村も……すべて失ってしまった。父はなんとか仕事を探して、今もなんとか生活できてはいたん、だけど………。」
「…………?」
「お母さんが、重い病気にかかったって………。」
アルルは、唇をかみしめて涙を堪えて、手元の手紙を握りしめた。
「高い治療費が払えないから、入院もできなくって、町の人たちも避難民には冷たくて、途方に暮れているって………。」