第12章 壁外調査
「エルヴィン団長、こちらの資料はまとめ終わっています。あと、こちらの書類はお目通し頂くだけで良いもの、押印と返却が必要なものを分けてありますので、ご確認ください。」
「ああ、すまない。助かるよ。」
「コーヒーは、こちらでよろしいですか?」
「ありがとう。………こんな優秀な補佐がいてくれると、本当に仕事が捗る。感謝するよ、ナナ。」
エルヴィン団長は、穏やかな笑顔を私に向ける。団長室に紅茶の香りはしない。香ばしく、ほろ苦いコーヒーの香りで満ちている。
「いえ、お役に立てて光栄です。」
三週間前、王都での招集から幹部の皆さんが戻られてすぐ、私はエルヴィン団長に呼び出された。そして、次の壁外調査にはやはり連れて行けないこと、そして、リヴァイ兵士長の補佐を外すことを告げられた。
壁外調査に関しては残念な気持ちもあったが、エルヴィン団長の判断に間違いはないと思える。そして、リヴァイ兵士長の補佐を外されることも、心のどこかで安堵した。
あの一件から、目も合わずろくに話すこともなかったからだ。側にいることが苦しい日が来るなんて、リヴァイさんと出会ってから想像したこともなかった。
しばらくは自分の訓練と兵士の健康管理に注力していたが、壁外調査の日程が迫るにつれエルヴィン団長の顔色がすぐれなくなってきていることが心配で、自ら雑務を名乗り出た。
エルヴィン団長はすんなり受け入れて下さり、色々な雑務を任されることになった。
そしてつい数日前、正式に団長補佐として業務命令が下り、今に至る。