第132章 仲合
――――トロスト区壁上―――――
「なぜわざわざこんなところまで連れて来た?」
「ここがどこだかわかるか会長?」
「はっ……ここは俺の街だぞ?トロスト区前門いや……元前門か。もしくは人類極南の最前線……あの世とこの世の境目。おっかねぇが稼げる……いい街だった。」
翼の日に向けてジルから進言があった“リーブス商会を押さえておけ”。それほどまでに力を有して、本人が自覚している通り商人なりに自分の街を守ろうとしているからこそ、つけこまれたか――――。
「俺達はこう呼んでいる。人類が初めて巨人に勝利した場所。そして……人類の無力さを証明する場所。巨人に空けられた穴を巨人の力で塞いだ。色々試したが結局人類じゃ到底及ばない話だったわけだ。――――まぁもちろん巨人の力だけで塞いだわけじゃない。数多くの兵士が命を投げ出した。その他にも幾重にも重なる奇跡の連続であんたの街はいまここにかろうじてある。その奇跡がエレンだ。あんたが連れ去ろうとしたもんはそれだ。」
「ふっ……俺はここに説教されに来たらしい。勘弁してくれねぇか旦那?老いぼれの身体には少し堪える。」
「……そうだなやめておこう。老人が怒られてんのは見てて辛い。」
「……そういや旦那は調査兵団のお偉いさんだろう?あいつは――――ナナは元気か?今ここにいないようだが。――――翼の日には世話んなった。」
リーブスが辺りを見回してナナを探す素振りを見せた。そうだ、翼の日の交渉でナナはこいつと面識がある。
――――うまく懐柔できるかもしれない。
「―――あいつは今戦線を離れている。」
「そうか。生きてんならいい……。あんな小さくて綺麗で……兵士のへの字も感じさせねぇような女がよ、俺に見事に啖呵切りやがってな。――――気に入ってんだ、あいつのことは。」
「……そうか。」
「俺のせがれの嫁にって思ってんだがな。」
「やるわけねぇだろ。」
俺の即答に、リーブスが目を丸くして俺を見た。