第132章 仲合
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同期の奴らは今までと同じ調子だったけど、ヒストリアは、今までのクリスタとは別人のように笑わなくなった。
その凄惨な生い立ちを話した時――――、いや、本名のヒストリア・レイスを名乗ったその時から。
ヒストリアはこの世界の有力者であるレイス卿が使用人に産ませた私生児で、その存在を良く思わなかった母親から空気のようにまるで見えていないかのような、少しの愛情も受けずに育ったそうだ。
その上その母親さえも目の前で惨殺されて―――――、ヒストリアは名前も素性も変えて生きていくことを辛うじて許された。
――――淡々と話すその様子が、いかにヒストリアの心を殺してきた過去だったかを物語っていた。
俺には想像もできない世界だ。いつだって母さんが優しく笑ってて――――、父さんも。
そしてナナがいる。
ミカサや、アルミンも。
誰からも存在を認められなくて、生きた心地がしただろうか。その生い立ちには同情さえするけど、それを憐れむのもまた違うだろうと、これまでと同じ接し方をした。
――――それに、俺は前のクリスタが苦手だった。
貼りつけたような“いい子”、“良い人”、塗り固めたような笑顔。それを無理して演じている気がして、不自然で―――――気持ち悪いとさえ思ったこともある。
俺達は今、本当のヒストリア・レイスという人物と初めて相対しているんだ。
その夜――――リヴァイ兵士長に集められた。
エルヴィン団長からの早馬で指示が届いたらしい。その内容を見て驚愕する。
王政サイドが中央憲兵を駆使して、あらゆる手段を講じてエレンとヒストリアを狙ってくる。返り討て。そして中央憲兵から王家とレイス家について情報を得ろ。
――――王政を転覆させるための算段をつける。と。
まさか………ニック司祭が殺されたこともあって、良くないものが俺達を狙ってるのは分かっていたけど……王政が。
この世界の中心に君臨する王とその側近が?