第132章 仲合
「思えばお前とは一緒に調査兵団を志した仲だった……。しかしお前はいきつけの酒場の女に恋をし、1人の女性を守る道を選んだ。」
「あぁそうだ……。俺はお前らを裏切り、今日までぬけぬけと生き延びた。……だが後悔はしていない。家族を作ったことが俺の誇りだ。」
「………お前を尊敬してるよ。先に逝った同期も同じだ。俺達にはできない生き方をお前はやったんだ。―――だが、組織に従い地位を守る事が必ずしも家族を守る事に繋がるわけではない。」
「…………!」
俺の言わんとしていることを察したナイルが、ストヘス区で私に向けたのと同じ目を向ける。――――相容れない、まるで異端な者を見るような目だ。
「今この小さな世界が変わろうとしている。希望か、絶望か。選ぶのは誰だ?誰が選ぶ?―――――お前は誰を信じる?」
「――――エルヴィン、お前何をやるつもりだ……。」
「毎度お馴染みの博打だ。俺はこれしか能がない。お前はお前の仕事をしろ。ただ忠告をしたかっただけだ。」
馬車は速度を緩めた。それはその場所への到着を意味する。
「ここまででいい。」
馬車から降りようとする俺を、ナイルが引き留めた。
「――――エルヴィン。」
「なんだ。」
「お前もマリーに惚れていただろうが。なのにお前は巨人を選んだ……これからもか?あの補佐官よりも、また巨人を――――ガキの頃の妄想を選ぶのか?」
同期としてのナイルが俺を心配しているのだろう。
人類の存亡がかかったこんな時にまで、同期の生き方を心配して苦言を呈すこの男が――――俺はやはり嫌いじゃない。
「いや。――――彼女はこの世で唯一、共にその妄想を真実に変えることができる存在だ。」
「―――――……!」
「――――俺の妄想は、もう彼女なしでは描けない。放さない、死んでも。」
「………やっぱりお前はどうかしてるよ。」
ナイルは驚きの表情を見せて――――、またも理解しがたい、と言った怪訝な表情をして、目を伏せたまま―――――馬車の扉が、ばたん、と閉じられた。