第132章 仲合
「ところでナイル。ニック司祭が中央第一憲兵に拷問を受けた後殺されたんだが……知っていたか?」
この問いに対するナイルの反応を、目の開き方、目線の動かし方、仕草に至るまで見逃さずに捕らえる。ナイルはまるで嘘などついていない様子で、ただただ驚愕した顔を私に向けた。
「………いや?」
「………そうか。奴らはエレンの居場所を知りたかったようなんだが、お前たち憲兵はなぜそんんなにエレンが欲しいんだ?人殺しに手を染めてまで。」
「我々は……上の御達しに従ったまでだ。理由など知らん。」
ナイルに若干の動揺が見える。
―――中央憲兵が王政直下の独自機関であることは知っているが―――憲兵団師団長であるナイルにさえも、中央憲兵の動きは全く予想外のものなのだと見える。
「我々が憲兵団の表の顔なら中央憲兵はその逆。指揮系統も違えば接点もない……我々から見ても何を考えているのかわからん連中だ。奴らを公に取り締まる者など存在しないからな。何をやってもお咎めなしだ。」
中央憲兵の暴走は、王政・王の暴走だ。
それを感じてか――――ナイルが怪訝な表情を見せる。
「―――エルヴィン。そんな分かりきったことが聞きたかったのか?俺を絞っても何も出んぞ。」
「どう思う?」
「………は?」
「彼らにエレンを委ねることでこの壁の危機が救われると思うか?お前はどう思う?」
憲兵団師団長にではなく、ナイル・ドークという一人の男に向かってその問を投げかける。
職務上で選ぶのではない、この男自身が何を見て、何を考え、何を選ぶのか。
「それは俺が考えることではない。俺は俺に与えられた仕事をこなすまでだ。」
「―――マリーは元気か?今度3人目が生まれるらしいな。」
「………お前は質問を絞ったらどうだ?」
怪訝な顔をしたナイルに向かって、少しの思い出話をする。――――ナイルは家族を作って――――この壁の中の統治に準じて、与えられた役割を遂行することで大切なものを守ろうとしている。
だがそれすら、 “役割を与えてくれる立場”の何かが大きく揺らいでいるのなら――――お前はどうする?