第131章 火蓋
「――――そうか。良くなって早く帰ってきて、ナナ。」
「――――はい……。」
本当は側にいたい。
何の役に立てなくても、ハンジさんの背中をさすって―――――必要なら、泣きたいなら、胸を貸せる。
でも、中央憲兵が動き出しているなら――――入り乱れた交戦にいつなったっておかしくない。目的のためなら手段を選ばない中央の勅命を受けて、それを着実に遂行しようとする組織だ。
――――私はきっと、戦いが始まったその時には……お荷物でしかないと、冷静になった今ならわかる。
私はきゅ、と唇を噛んで俯いた様子を、エルヴィン団長は見ていた。
「――――ハンジに付いて行って―――エレンのところに顔を出してから王都に帰るか、と言ってやりたいところだが――――……。」
「……いえ。お気遣いは無用です。きっとロイにも中央の見張りが付いてる。私も変に動くべきじゃないです。エレンとヒストリアの居場所は、絶対に漏らしてはいけない……。」
私の言葉を聞いて、エルヴィン団長とハンジさんは少しだけ悲しげに笑んだ。
本当は会いたい。
ちゃんと話したい。
エレンにも、ミカサにも、アルミンにも。
だけど一番会いたいのは―――――………。
私のことを心配して、ロイを呼んでくれた。
そんなあなたの愛情を、脆い精神状態だったとはいえ疑って、心の中で責めた。それをちゃんと謝りたい。
そして治してくるから、いつかまた――――自由の空の下へ、一緒に行きたいんだと、その目を見てちゃんと伝えたい。
―――――リヴァイさん……。
「――――その通りだ。ナナも帰る支度をしなさい。私も王都に向かう。共に行こう。」
「はい。」
「……エルヴィン、ナナを頼むね。」
「ああ。」