第131章 火蓋
「――――私の腕を、あげられたらいいのに。」
「――――それは困る。こんな美しくて細い腕をもらっても、勿体なくて使えない。」
「――――もう、大きな両手で――――私の頬を包んでくれることは二度と、ないんだね。」
そう零して、ぽろ、とまた――――一筋の涙を流した。
「――――それはできないが、俺はそれなりにワクワクしている。」
「………何に……?」
ナナが不思議そうに、俺を見上げた。
「――――片腕でどうやって君を抱いて――――乱して、鳴かせようかってね。」
耳元でそう囁いて耳を食む。ぴくん、と身体を小さく震わせて、ナナは少しだけ笑った。
「――――ばか………。」
ナナが眠ってから、自室に戻る。
俺も眠りに付こうとベッドに入って目を閉じると――――、ないはずの腕が痛み出した。
眠ることすらままならないほどの、意識を保つのもやっとなほどの痛みだ。無意識に、動く左手で右肩を強く強く掴んで痛みを少しでも和らげようとしているのだと気付いた。その肩には爪が食い込み、鬱血していて―――――、
ナナがどれほど俺の為に、その身を犠牲に痛みに耐えてくれていたのかと思い知った。