第131章 火蓋
いつからだろう、あんなに信頼していたサネスさんに嫌悪を感じるようになったのは。汚れ仕事に誇りを持って遂行しているけど――――、その心の奥底にはちゃんと、人の心があって、王への限りない忠誠によりこの仕事をやってのけているんだと信じてた。
――――けれど。
俺は見てしまった。
民間人を拷問にかける時――――それは使命感じゃない。
確かに喜々として、悦楽の拳を振るっていた。
――――まるで醜い獣みたいだ。
サネスさんとそれ以上の会話もしたくなくて、中央憲兵兵舎の一室から出た。そこにはギラギラした死神みたいな、俺の直属の上司がいつものようにふざけた笑みをたたえてそこにいた。
「――――おう、アーチ。」
「……隊長。」
「――――近々派手にヤることになるぞぉ。腹くくっとけよ。」
「――――腹なんてくくってますよ、とうの昔に。」
「はっ……。」
ケニー隊長は、俺の言葉に『どうだか』とでも言いたそうに鼻で笑った。
「なんですか。」
「――――殺される覚悟も、殺す覚悟もしとけよ。特に―――――身内も。兄貴であってもなァ。」
「――――………!」
兄貴。
調査兵団と殺りあうのか。
ついに。
殺すのか、俺が。
兄貴を。
リンファが愛した兄貴を。
それとも殺されるのか。
そしたら兄貴は泣くんだろう。
どっちがいいのか、わからない。
なら――――戦うまでだ。
強い方が勝って――――生き残る。
そんな世界じゃないか、この世は……もともと。
俯いて唇を噛みしめた俺を見て、隊長はにやりと笑う。
「――――いい顔じゃねぇか。」
――――イカれた男だ。
だが、その実力は他の奴らの比じゃない。
それに――――“大いなる野望”を堂々と掲げて俺達を牽引する。なぜだろう、この潔さが、よっぽど清々しく―――――付いて行ってみようかと、思わせるんだ。