第131章 火蓋
世の中は大荒れだ。
巨人になれる人間があちこちに出て来てから―――――、王の威厳は日に日に落ちて行くばかりだ。
巨人化できる調査兵団の少年を救世の神だと崇め、持ち上げて王への忠誠に反する運動があちこちで勃発している。俺達はその火種を消すことに奔走する毎日だ。
――――つくづく調査兵団は邪魔だ。
結局あの女―――――、ナナ・オーウェンズを夜会で貶める事も、阻まれた。まさか団長だけでなく人類最強の兵士・リヴァイ兵士長まで来るとは……。
いや……それだけじゃない、最も誤算だったのは、ライオネル公爵の横やりだ。
あれが無ければ――――、もっと貴族の無能共を扇動して調査兵団の力を削げるはずだったのに。あのあと公爵がナナの元に頻繁に通っていたから、偽物のナナ…アリシアを買収した奴らもこぞって何事も無かったように息を潜めやがった。
――――触らぬ神に祟りなしってとこか。
公爵までたらしこんだあの女は本当に―――――厄介で恐ろしい、王の敵だ。
「――――怖い顔だな、アーチ。」
「………サネスさん。しばらくトロスト区に駐在すると聞きましたが。今日発つんですか?」
「ああ。お前はもうすっかり対人部隊の中でも指折りの存在だと言うじゃないか。さすがだな。」
「対人立体機動が結構使いやすくて。これだけ世の中が荒れてりゃ、近いうち実践になるでしょうしね。今の間に腕を磨いてます。」
「そうか……やはりお前には、肉弾戦が性に合ってるんだろう。――――つい先日も、王都の研究所の人間に事故に遭ってもらう件……あれも随分心を痛めていたな?」
「……っあれは……。」
「『疫病から人類を救おうとする人間を殺すなんて』……と言ったところか?」
「――――そう、思います……。」
「お前は純粋だからな。」
サネスさんがはっ、と笑ったその顔が―――――嫌だ。