第130章 天秤
「――――エルヴィンも、私を遠ざけるの……?」
「本当は遠ざけたくない。だが、君は今危険な状態だ。だから――――」
「死ぬときも側にって、言った……っ……!」
「――――………。」
「――――うそつき!!!」
ナナが声を荒げて、呼吸が早くなる。
目に溜まる涙が許容量を超えて、ぽろぽろと零れ落ちる。それを拭う事すらせずに、ただなんとかして調査兵団に残る方法を模索しているように見える。
「ナナ……落ち着けと、言っている。」
「なんだっていい、側にいさせて……。どう使ってもいい……捨て駒でもいい。あぁそうだ――――エルヴィンがいつか言った……慰めるだけの、抱くためだけに飼ってくれたらいいんだ……。」
ナナは自分の腕に刺さる点滴の針を無理矢理、引き抜いた。乱暴に取り去ったそこから、血が流れている。
そんなことにもお構いなしに、ギシ、とベッドを軋ませて俺のほうへ身体を寄せる。
「――――やめろナナ。血が出てる。」
「――――やだ。」
血が流れる腕で俺の腿に手を添えて煽情的に手を滑らせた。
「ねぇ、いくらでもひどくしていい。知ってるもの。エルヴィンが――――加虐的なセックスが好きなこと。」
俺を見上げるその目は昏くて――――、虚ろだ。
まるでいつもの彼女じゃない。
この危うさは――――ロイと似てる。
不安定で幼くて――――それに反して、罪なほどに欲を誘う美しさだ。
「――――自分で自分を制しろ、ナナ。君が自暴自棄な行動を起こしても、俺は――――君を抱き留めるには、腕が足りない。」
「―――――………。」
ナナはほんの少し、何かが胸に刺さったようにぐっと怯んで――――、また、ぽろぽろと涙を零した。