第130章 天秤
「………ワーナーさんと約束したの……リヴァイさんと一緒に、外の世界に、行くって……。」
「………ああ、わかってるよ。」
「………エルヴィンを、愛してるの。」
「………ああ、痛いほど知ってる。」
「………離れたくない。離れている間に―――――もし、調査兵団のみんなに、何か――――あったら………私は、きっと――――息ができなくなって、死んでしまう――――。」
「………君がどれほど仲間を愛しているかも、わかってるよ。」
「だったら………っ………!」
「――――君がみんなを想うのと同じくらい、みんな君が大事だ。日に日に食べられなくなって衰弱していく君を、見ていられない。みんな――――、自分達が君の命を削っているんだと自分を責める。それを君は望むのか?」
「………っ………。」
「――――ほんの少しの間だけだ。不調の原因をちゃんと知って、治して来い。これは、調査兵団団長としての命令だ。君は調査兵団に必要だからな。」
「――――一時、だけ……?」
「そうだ。」
「――――帰って来いって、言ってくれるの……?」
「――――もちろんだ。離さないと言ったろう?死んだって――――離さないと。ちゃんと治して――――帰って来い、俺達のところへ。」
「………これで最後じゃ、ない……?」
「当たり前だ。共に死ぬとしたら、万全の状態で俺の右腕として戦って――――、みんな共に朽ちる時だ。君は一人ベッドの上で死ぬなんて許さない。そして――――俺達も、君が戻るまで死なない。」
「――――うん………。わかった………。」
ナナは零れ落ちる涙を、両手の手の甲で拭った。
驚くほど聡明で大人びた彼女の外側が崩れれば、こんなにも幼い少女だ。
俺も君も――――同じだ。
内に飼っているものを取り繕うために、弱みを見せずにまるで武装するように、正反対の人格を育て上げて来たんだろう。
君が本当の俺を見つけて受け入れてくれたように、俺だって内側でいつも一人泣いている少女のようなナナも、愛しているんだ。
ナナはロイと共にトロスト区から王都へと戻ることに決めた。
なんとか了承してはくれたものの、最後の最後まで――――悲しい目をしていた。